1 論点の所在
離婚意思とは何か、特に方便としてなされた離婚につき、離婚意思が存在するか問題となる。
2 学説
形式的意思説と実質的意思説の争いがある。判例は、形式的意思説に立っていると言われる。
(1)実質的意思説
離婚意思とは届出に向けられた意思だけでは足りず、婚姻の実体を解消する(実質的身分関係の変動に向けられた)意思をも必要とする説である。
(2)形式的意思説
離婚という身分関係解消の場合には、実体を解消する意思がなくても、法律関係の解消に向けられた意思があれば十分である。
3 判例
以下、仮装離婚において、離婚意思が問題となった大審院及び最高裁判例を挙げる。
(1)大判大正11年2月25日(民集1巻2号69頁)これは、長男の浪費から資産を保全するために、夫が妻に財産を贈与した上で、婚姻解消の意思がないのに離婚屈を出し、これにつき第三者から仮装離婚であるから無効だと争われた事例である。大審院は、「虚偽表示ハ絶対無効であるとし、この離婚を無効とした。
(2)大判昭和16年2月3日(民集20巻1号70頁)債権者の強制執行を免れるため財産を妻に贈与し、債務整理が済むまで一時仮に離婚することにして離婚屈を出し、その後も夫婦関係を継続していたが、やがて夫は他女と同棲し婚姻屈を出したため、妻が仮装虚偽離婚を無効と主張し、それに対し大審院はこの離婚を有効とした。夫婦が事実上夫婦関係を継続する意思を有しながら協議離婚の届出をしたときは、届出後の関係は内縁関係にとどめ、法律上の夫婦関係は一応解消する意思で届出をしたと認めるべきだとした。
(3)最判昭和38年11月28日(民集17巻11号1469頁)
戸主変更のために離婚屈が出された事例であり、これに対し最高裁は「方便のため離婚の届出をしたが、右は両者が法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてなしたものであり、このような場合、両者の間に離婚の意思がないとは言い得ないから、本件協議離婚を所論理由を以って無効となすべからざることは当然であるとし、この離婚届けを有効とした。最高裁においても、(2)の判例の考え方は受け継がれた。
(4)最判昭和57年3月26日(判時1041号66頁)
生活保護金の受給を目的とした離婚について、「本件離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてなされたものであって、本件離婚を無効とすることはできない」とし、この離婚届を有効とした(以上、朝妻文子「身分行為意思について」)。
4 まとめ
このように、判例は方便のための離婚の届出であっても、当事者が法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてした者である以上、離婚意思がないとはいえず、離婚は無効とは言えないとする。かかる判例の考え方は、形式的意思説にきわめて近い考え方を取るが、「法律上の婚姻関係を解消する意思」は届出意思とは異なるものと考えられていることに注意しなければならないとされる(前掲コンメ83頁)。
5 離婚意思がないとされる場合に関する学説
当事者の一方または双方不知の間に他方または第3者によって離婚届がなされた場合のように当事者の一方または双方に離婚の届出意思の欠く場合、当事者が一旦は離婚に合意し届書を作成したもののその受理前に離婚の意思を撤回した場合(翻意)や届書の提出を依頼した者に対しその依頼を撤回した場合、同様に有効に届書を作成した後当事者の一方が死亡した場合などであるとされる(前掲コンメ84頁)
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