Nテレビから内定を得たA氏が、過去に銀座でホステスのアルバイトをしていた経験があることを理由に、日本テレビから内定を取り消された事案に関する検討

1   NテレビとA氏の間の法律関係について
(1) 結論  
       解約権留保付労働契約であると考えられる。 
(2) 理由
      判例・通説は、採用内定により労働者と使用者の間に解約権留保付労働契約が成立するとしている(最二小判昭54.7.20民集33巻5号582頁、判タ399号32頁・大日本印刷事件等)
(3)本件へのあてはめ
      本件においても、A氏とNテレビの間に、解約権留保付労働契約成立したと判断される可能性は高いと考えられる。
      
2  解約権留保付労働契約が成立している場合における、使用者からの解約権行使の限界について
     客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる事由があることが必要である(前掲最二小判昭54.7.20・大日本印刷事件)。法律実務は、この基準に従って判断している。

 

3  いかなる事由が採用内定の取消事由になるか。
(1)結論
   ① 採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であり
  ② これを理由として採用内定を取り消すことが、解約権留保の趣旨、 目的に照らして是認することができるものに限られる。

(2)前掲最高裁昭和54年7月20日判決
     「したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」


4 本件内定取消事由が採用内定の取消事由になるか
(1)事実関係
      A氏の知人の経営する銀座のクラブで、A氏が3ヶ月間ホステスとしてアルバイトをしていた。
(2)本件では、A氏は、採用内定の通知が出される前にNテレビに対して、ホステスとして過去アルバイトをしていたことを申告していなかったのであり、上記最高裁のいう①採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実の要件を満たす。

(3) 次に、採用内定を取り消すことが②解約権留保の趣旨、目的に照らして是認することができるものに限られるか検討する。Nテレビは、以下のとおり主張していたようである。
    Ⅰ  銀座でホステスとしてアルバイトをしていたという経験を採用選考過   程で申告しなかったことが、虚偽申告に該当する。
    Ⅱ  女性アナウンサーの仕事には高度の清廉さが求められる。
   Ⅲ  Ⅰ及びⅡから、採用内定を取り消すこととが、解約権留保の趣旨、目的 に照らして是認することができる

5  A氏に申告義務があるか
(1)A氏とNテレビとの労働契約が、A氏の職種につきアナウンサーという職種を限定したものであったことを前提に論じる。
(2)アナウンサーの職務は、テレビ等において、ニュース原稿を読み、実   況中継をし、あるいは番組の司会、進行等を行うことであり、A氏も本件において、Nテレビに入社後は、同様の職務を担うことが予定されていたと考えられる。しかし、A氏が過去に銀座でホステスとしてアルバイトしていた経験を有することが、A氏の上記アナウンサーとしての職務の遂行に支障をきたすとはおよそ考えられず、A氏のアナウンサーとしての職務遂行能力におよそ関係のない事項であるというべきである。したがって、A氏には、採用選考過程において、過去、銀座でホステスとしてアルバイトをした経験を有することを、Nテレビに申告する義務はないというべきである。
(3)次に、Nテレビの、女性アナウンサーの仕事には、高度の清廉さが求められ、そのことから、A氏は、過去銀座で銀座でホステスとしてアルバイトをした経験を有することを、採用選考過程において申告する義務があったという主張の当否について論じる。しかし、上記の女性アナウンサーの仕事内容からして、一般社員よりもとりたたてて高度の清廉さが求められるとは認められない。
   よって、A氏には、過去銀座で銀座でホステスとしてアルバイトをした経験を有することを、採用選考過程において申告する義務はなかった。したがって、虚偽申告を理由とする採用内定の取消は認められないというべきである。
   そして、女性アナウンサーの仕事に高度の清廉さが求められるとするNテレビの主張が認められないことは、前述のとおりであって、したがって、女性アナウンサーの仕事に高度の清廉さが求められるため、A氏が過去銀座でホステスのアルバイトをした経験を有することが、採用内定の取消事由に該当するというNテレビの主張も認められない。

6 結論
   以上より、Nテレビの主張が認められないことは明らかであり、A氏の 請求が認められるべきである。