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1 新株発行不存在とは、いかなる場合を言うのか大きく分けて次の
 二つの立場がある。
 
(1)新株発行が不存在であるとは、新株発行が物理的に存在しない=実体がない場合と狭く解する立場
(2)新株発行不存在事由を広く解し、新株発行の実体が存在しない場合に限られず、新株発行の手続的・実体的瑕疵が著しい場合も含まれるとする立場
 
2 ②の立場を取った代表的な判例として、東京高等裁判所昭和61年8月21日判例時報1208号123頁がある。
   
3 この問題に関する最高裁の立場は実は不明確である。最高裁判所平成9年1月28日第三小法廷判決最高裁判所民事判例集51巻1号40頁は以下のように述べる。
  「新株発行の実体が存在しないというべき場合であっても、新株発行の登記がされているなど何らかの外観があるために、新株発行の不存在を主張する者が訴訟によってその旨の確認を得る必要のある事態が生じ得ることは否定することができない」
 すなわち、最高裁判所平成9年1月28日第三小法廷判決最高裁判所民事判例集51巻1号40頁は、新株発行の実体が存在しないが、新株発行の外観がある場合に、新株発行が不存在であることの確認を求める必要性は認める。しかし、新株発行不存在事由に重大な手続違反があった場合を含めるかどうかは明言していない。(この最高裁判決の調査官は、新株発行不存在とは、新株発行の実体が存在しない場合を言うとしている)。

4 次に、最高裁判所平成15年3月27日判決最高裁判所民事判例集57巻3号312頁は、以下のように説示する。
 「すなわち不存在であるにもかかわらず、新株発行の登記(商法一八八条三項、六七条、商業登記法八二条)がされているなど、あたかも新株発行がされているかのような何らかの外観が生じていることがあり得るのであって、このような外がある場合には、新株発行の不存在を主張する者が、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってその不存在の確認を得る必要があることを否定することができないから、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行の不存在についても、新株発行無効の訴えに準じて、その旨の確認の訴えを肯定するのが相当である。」
 
 この最高裁判決の調査官解説は、本判決が、上記東京高裁昭和61年判決の立場を明確に否定したものとする。もっとも、上記最高裁平成15年判決の差戻審である高松高等裁判所平成15年7月29日判決判例集未登載は、有力説の立場に立って「本件新株発行は、代表権のないBがAに無断でしたものであること、新株発行を決議したとされる取締役会が開催された事実がないこと、各株主に対し新株発行事項の通知がなされていないこと、本件新株発行は、物理的にはこれが存在するかのような外観を呈してはいるが、その手続的、実体的瑕疵が著しいため不存在と評価すべきものである」と説示している。

5 以上の判例の状況からすれば、必ずしも最高裁は、新株発行不存在事由につき、新株発行が物理的に存在しない=実体がない場合と狭く解する立場を採用していると断言はできないと考えられる。

   
6 私が調査した範囲では、最高裁平成15年判決以降の公刊された新株発行不存在確認訴訟においては①の立場に立つと見られるものが全てであり、②の立場に立つと見られるものはなかった。もっとも、公刊されていない判決においては、②の立場が採用されている可能性があり、新株発行不存在事由の意義については、やはり、未だ判然としない。