報道によれば、A法律事務所は、事件の着手金を「今だけ無料」等、今契約を締結すればまるで得するかのような広告を、5年にわたり表示しており、かかる内容の広告を行ったことが景品表示法に違反するとして、消費者庁から措置命令の処分を受けたとのことである。
 仮に報道された内容が事実であるとすれば、今回の処分の対象となったA法律事務所の行った広告は、典型的な有利誤認表示に該当する。当然、法律家であれば、上記内容のような広告をすれば、景品表示法に違反することは分かっていたと考えられる。
 100歩譲って、A法律事務所の弁護士が景品表示法を見たことがないとしても、5年にわたって上記のような広告を続けるという行為が、広告の受けてを騙す行為であり、何がしかの法に触れる可能性がある、という感覚は、法律家であれば、当然持っているべき感覚である。
 従って、A法律事務所は、上記広告の持つ違法性を認識しつつ、上記広告を行った可能性が高いということになる。
 さて、問題は、弁護士会が、今後、A法律事務所に対し、上記内容の広告を行ったこと及び上記内容の広告を行ったことで、消費者庁から措置命令を受けたことにつき、どのように対応するか、であると思う。
 私は、会立件の懲戒については、出来る限り抑制的に運用されるべきであると考えている。しかし、今回の事案は、一般人の弁護士に対する信頼を損ねた度合いで言えば、極めて重大なものがあるように思う。
 そして何より問題であるのは、本来、弁護士会が監督・処分すべき問題を、消費者庁が対処したことである。今回の事例のような事例が多発すれば、弁護士自治に対してどのような影響が及ぶのか。消費者庁に最初に弁護士会として、何がしかの対応をすべきではなかったか。即ち、A法律事務所は、弁護士自治に対し、公権力が干渉するきっかけを与えたといいうるのである。
 もっとも、今回の件で、同業者の悪質な過大広告に対して、消費者庁への情報提供という手段が、一つの有効な方法となるということが明らかとなった。そして、消費者庁への情報提供という手段は、当該問題弁護士に対する懲戒請求よりも、明らかにハードルが低い。私は、特に同業者の虚偽性を含んだ広告表示は、かかる広告表示が一般人の弁護士に対する信頼を著しく損ねることから、極めて問題があると考えている。よって、私は、今回のA法律事務所のような虚偽性を含んだ広告表示を行う同業者については、すべからく、市場から退場していただく必要があると考えている。
 私は、現在、虚偽性のある広告表示を行った悪質な同業者に対し、過去の広告も含め、消費者庁に一定の処分を求めて情報提供を行うための準備をしている。そのために、過去の広告も含め、様々な同業者の広告をプリントアウトしている。中には、完全に虚偽の広告もあり、悪質性の高いものもかなりある。このような、弁護士による問題広告が一般的に行われているという事態を放置した日弁連の責任は、非常に重いと言わざるを得ないように思う。