法テラスを通じて、依頼をしようと考えている人に向けて記事を書く。結論から言えば、法テラスを通じて、弁護士に依頼することだけはやめておけ、ということになる。
   おそらく、法テラスを通じて、依頼を検討する人の懸念事項としては、弁護士が手を抜かないか、ちゃんと仕事をしてくれるのか、心配であるというものではないかと思う。
   そして、私が実際に、弁護士として活動している中で、法テラスの弁護士の仕事ぶりを観察する範囲では、法テラス案件については、手を抜かずにやっている弁護士の方が少ない。そして、法テラスを通じて弁護士を選任したという事実自体、訴訟においては、致命的な弱点となりうる。
   例えば、私が担当した以下のようなケース。
   私は、労使紛争で、被告(使用者)側の代理人を勤めていた。原告(労働者)側にも弁護士がついており、労働者は、その弁護士を法テラスを通じて、選任していた。請求額は、相当高額であった。多くの労働事件と同様、使用者側の勝ち目はほとんどなかった。しかし、私は、被告側代理人として徹底的に争う姿勢を見せた。私は、原告が法テラスを通じて代理人を選任していたので、原告代理人は、本音では、早く事件を終わらせたいと考えているに違いない、と読んでいた。
   私は、大量に証拠を提出し、判決で認められるかは別として、法律上の主張も相当盛り込んだ準備書面を提出した。最終的に原告代理人の方から、和解の提案があり、結果、被告側に極めて有利な内容で、裁判上の和解が成立した。
   上記のケースでは、仮に判決となれば、原告は被告から数百万円は、回収できたケースであった。そして、そのことを原告代理人が原告に伝えていれば原告にとって和解するメリットなどなかった。 詳細は書けないものの、明らかに原告は、原告代理人に説得されて和解に応じようとしていた。そして、原告代理人が、なぜ原告本人を和解しようと説得したかといえば、原告代理人自身、法テラスからは安い報酬しか支払われないのに、事件を長引かされては困る、と考えたからである。
  普通の弁護士、つまり、法テラスで依頼する弁護士以外の弁護士であれば、おそらくは、判決まできっちり戦ってくれたであろうし、絶対に戦うべき案件であった。
   つまり、原告は、法テラスを利用することによって、本来得られるはずであった数百万円を得られなかったのである。
   しかし、安かろう悪かろうは、社会の常識であり、それは弁護士であっても変わりない。訴訟は、医療行為にたとえれば、手術である。それくらい大変なものである。そのような大変な訴訟という行為について、安くすませようという心がけ自体、心得違いであり、上記のケースでいえば、当該原告の自己責任である。 
   そして、司法制度改革が最終的には自己責任社会を目指している以上、上記原告がどうなろうが、われわれ弁護士の知ったことではない。また、我々弁護士も、サービスに対する対価をきっちりと払わない人間を助けるほどお人好ではない。
   法テラスを「使う」人は、自己責任で利用を決定すべきであろう。