引き続き、法曹養成制度改革顧問会議第15回会議資料について書く。
 今回の会議の資料で、もっとも重要であると考えられるのが、以下の資料である。
 法曹人口調査 分析についての考え方(たたき台)(以下、「たたき台」という)

1 たたき台における法曹人口の決定方法についての考え
  たたき台の中で、今回の調査の結果を踏まえた今後の法曹人口の決定方法について、次のように述べられている。
   「まず利用者側における法曹に対する需要の状況を把握し,その上で法曹養成課程の現状を踏まえた法曹の供給状況,今後の見込みを考えることでよいか。」
  すなわち、まず、需要の状況を把握し、その上で、法曹の供給状況を考える、という方針が述べられている。

2 司法制度改革審議会における法曹人口の決定方法についての考え方との比較
(1)次に、たたき台で提案された法曹人口の決定方法についての考えと、司法制度改革審議会における法曹人口の決定方法についての考えを比較する。
(2)当初の司法制度改革審議会の考え方も、弁護士を増やせば、弁護士に対する需要が増加する、という新自由主義的な考え方を採用していない。当初の司法制度改革審議会の考え方も、法曹に対する需要が増えることが予想されるので、法曹人口を増やす、という考え方である。
 
 「今後の社会・経済の進展に伴い、法曹に対する需要は、量的に増大するとともに、質的にも一層多様化・高度化していくことが予想される。現在の我が国の法曹を見ると、いずれの面においても、社会の法的需要に十分対応できているとは言い難い状況にあり、前記の種々の制度改革を実りある形で実現する上でも、その直接の担い手となる法曹の質・量を大幅に拡充することは不可欠である。 法曹人口については、平成16(2004)年には現行司法試験合格者数1,500人を達成した上、新たな法曹養成制度の整備状況等を見定めながら、平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数を年間3,000人にまで増加させることを目指す。 」(平成13年6月12日付司法制度改革審議会「司法制度改革審議会意見書」より引用)。

(3)つまり、今回のたたき台及び司法制度改革審議会の法曹人口の在り方に対する考えは、法曹に対する需要から法曹の供給=法曹人口を決定するという点で、同じである。

3 たたき台の続き
(1)たたき台には、上記の法曹人口の決定方法についての提案に続いて、次の記載がある
  「法曹に対する需要は認められるか。どの分野でどの程度認められるか。
   例 ○ 一般国民における需要の有無(年代別,アクセスの難易別その他の要素による需要の有無ないし変動,価格の変化による需要の変動)及びその程度 
  ○ 企業における需要の有無(企業規模その他の要素による変動,業務内容による 需要の違い)及びその程度   
  ○ 国・地方自治体における需要の有無(規模その他の要素による変動)及びその 程度 
  ○ 裁判事件についての需要の有無及びその程度 」

(2)上記たたき台に記載された法曹の需要の具体例は、法曹に対する需要量を決定する際において、必ず考慮されると考えられる。需要の具体例についての記載に関して、重要であるのは、以下の点である。
  ① 需要は、裁判事件に限定されていない。
  ② 一般国民における需要が考慮される。
  ③ 価格の変化による需要の変動など、需要が変動するものとされる。
  ④ 一般国民における需要が、裁判事件についての需要よりも上に記載されている。
  特に、価格の変化による需要の変動を、法曹に対する需要の有無を判断する際に考慮するとされたことは重要である。価格の変化による需要の変動を考慮することで「弁護士が価格を低下することによって、弁護士に対する依頼が増えると予測されるので、法曹人口を増加する」という、司法制度改革審議会の考え方と同じか類似の考え方を、採用することが可能になるのである。

4 まとめ
(1)今後の法曹人口に対する考え方として、以下の2通りがあると思う。
  ① 調査の結果、法曹に対する需要が増加していないので、方針を変更して、法曹人口を増加しない、あるいは増加のペースを落とす
  ② 調査の結果、法曹に対する需要は増加している、あるいは、需要は増加すると予測されるので法曹人口を増加させる方針を変えない
(2)顧問会議が、たたき台を資料として公開し、上記のような法曹人口の決定方法を提案し、価格による需要の変動を、法曹に対する需要の有無を決定する際の考慮要因とした事実を、どのように捉えるべきか。
  私は、顧問会議が、需要は、価格の変動によって、変動(増加する)としていることからして、顧問会議は、法曹人口の決定方法につき、司法制度改革審議会の考え方を引継ぎ、②の考え方を採用することは間違いないと考える。
(3)具体的には、顧問会議は、次のように述べるだろう。
  「調査の結果、弁護士に対する潜在的な需要は存在している。そして弁護士が価格を低下し、また、営業方法の工夫等することによって、需要は顕在化され、法曹に対する需要は増加するものと考えられる。」
(4)つまり、需要が増大すると予測されるので、法曹人口を増加するという、司法制度改革審議会とほぼ変わらない考え方を顧問会議は打ち出すであろう。あくまで、司法制度改革の目的は、国民の権利の実現や、法の支配の実現にあるのであはなく、弁護士の力を弱めることにあるのであるから。