1 論点
  仮差押解放金について、債権者に優先弁済権が認められるか。

2 判例・通説の考え方
 (1)この点、仮差押は、その執行によって債権者に優先権を取得させるものではないから、仮差押の目的物に代わる解放金についても、債権者に優先権を与えるべきではないとの理由で、仮差押解放金につき、優先弁済権は認められないとされる(参照 水野有子「仮差押解放金をめぐる問題点」実務の現状108頁)。

(2)議論の背景
      このような仮差押解放金の法的性質については、仮差押解放金が供託された場合、仮 差押債権者の権利行使の方法をめぐる争いの中で、議論されてきた。以下、仮差押解放金の権利行使の方法をめぐる議論状況を参照のために記載する。  仮差押債権者による仮差押解放金の権利行使の方法をめぐって、次の2つの考え方がある。
    ア 仮差押債権者は、供託金に対し直接還付請求権を取得するものであるから、改めて本執行の手続をとるまでもなく、直接供託所に本案勝訴判決とその確定証明書を提出して還付の手続ができるとする考え方である(福岡高等裁判所昭和33年6月30日判決高民集11巻5号365頁)。かつての供託実務はこの考え方に従っていた(昭和29年9月28日法務省民甲1855号民事局長通達)。
   イ 仮差押債権者は、解放金について直接権利を有するものではなく、仮差押債務者の国に対する供託金取戻請求権の上に仮差押の効力を主張しうるにすぎないから、仮差押えが本執行に移行し執行の目的物を債務者所有物として競売してその売得金を債権者に交付するのと同様に、仮差押債権者は債務名義を得て、その取戻請求権を差し押さえ、転付命令を求めるべきであるとする見解である(札幌高等裁判所昭和36年10月12日決定高民集14巻7号489頁、東京高等裁判所昭和48年5月15日決定高民集26巻21号214頁、昭和57年6月4日法務省民4第3662号通達)。
(3)現在の判例・多数説
      上記イの考え方が、現在の判例・多数説である(「民事保全の実務 第3版 上」241頁)。


3 仮差押債権者による権利行使の方法
  現在の判例・多数説である上記イの考え方によると、仮差押の執行の効力は、債務者の有する供託金取戻請求権又は供託金還付請求権の上に及んでいるのであるから、仮差押債権者は、本案勝訴の確定判決等を債務名義として、仮差押債務者の有する供託金取戻請求権(民事保全法第22条)、供託金還付請求権(民事保全法第50条3項のみなし解放金)に対し、供託書を第3債務者とする債権執行の手続によらなければ権利行使ができないことになる(「民事保全の実務 第3版 上」241頁)。

4 論点
    仮差押解放金に別除権が認められるか
 (1)別除権の性質
      別除権は、破産財団所属財産についての物的な優先弁済権を基礎とするものであり、優先弁済権に対応する担保価値を別除する権能を意味する(伊藤眞「破産法」318頁)。
 (2)仮差押解放金に別除権が認められるか
       前述のように、仮差押解放金に優先弁済権はない。よって、仮差押解放金について、別除権が認められない可能性は高い。