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 たまに、遺産分割協議書に署名捺印した。しかし、遺産分割協議の内容に納得できないという相談がある。よくあるのが遺産分割協議書に署名捺印したのは、他の相続人に騙されたり、脅されたりしたからだというもの。
 
 詐欺、錯誤及び強迫により遺産分割協議が無効という主張を行うことになる。しかし、詐欺の主張はとおりにくい。メインの主張は、錯誤ということになる。

 錯誤が認められるかどうか、ポイントになるのが、法定相続分どおりに相続していれば、もらえるはずの財産の範囲について誤解があったかという点。判例は、相続人に、自分の相続分に誤解があり、遺産分割協議書にサインしたというケースでは、錯誤無効の主張を認める傾向にある。

 次の判例は、相続人の一人が、より多くの遺産を取得できる可能性があるにもかかわらず、当該可能性について誤解していた事案において、遺産分割協議の錯誤無効を認めた。

 東京地方裁判所平成11年1月22日判例時報1685号51
 「被告の錯誤は、本件遺産分割協議を成立させるに至った動機の錯誤ではあるが、原告らがその提示する分割案における以上の遺産を被告が取得できないかのような説明を行ったたために被告がそのような動機を抱くに至ったのであって、要するに、本件錯誤に係る被告の動機は原告らが被告に本件遺産分割協議に応じるように説得した原告らの説得内容そのものであるから、被告の動機は当然に原告らに表示されているものというべきである。そして、被告が民法九〇三条所定の相続分に従った遺産分割を希望すれば本件遺産分割協議の内容(被告の取得額は約四二〇〇万円)よりもはるかに多くの遺産(民法九〇三条に従った場合の被告の取得額は相続債務及び相続税を控除しても少なくとも約二億六〇〇〇万円)を取得できる可能性があることを知っていた場合には、通常人であれば本件遺産分割協議に応じることはないと解されるから、被告の錯誤は本件遺産分割協議成立に向けた意思表示の要素の錯誤というべきであり、被告の錯誤によって成立した本件遺産分割協議は民法九五条により無効である。」