部下に対する厳しい指導がパワハラとなるか、線引きが難しく、判断に迷うことがあると思います。東京高裁平成25年2月27日判決(ザ・ウィンザーホテルズ・インターナショナル事件)では、上司による注意指導が、パワハラに該当するかが問題となりました。

1  ザ・ウィンザーホテルズ・インターナショナル事件(自然退職事件)東京高裁平成25年2月27日労判1072-5
    上司が、就業規則に基づく帰社命令を無視して帰宅した部下に対し、メールと携帯電話で注意したところ、不法行為(パワハラ)が成立するとされた事案


2   違法性が認められた点
     上司が、以前から部下に嫌がらせをしていたこと、メール及び電話の間が深夜(午後11時前後)であったこと、メールが嫌味な語調で「うらやましい。僕は一度も入学式や卒業式に出たことはありません。」という内容のものであったこと、メールを送った後、更に2度も携帯電話で電話をしたこと、携帯電話に「本当に怒りました。」「明日,私,辞表を出しますんで」「本当に,僕,頭にきました。」と怒りを露わにして録音をしたこと、以上のことから上司の一連の行為の主たる目的が、注意を与えるよりも嫌がらせ目的にあったこと

3   裁判所の判断
     本件7・1留守電やメールの内容や語調,深夜の時間帯であることに加え,従前の一審被告丙川の原告に対する態度に鑑みると,同留守電及びメールは,一審原告が帰社命令に違反したことへの注意を与えることよりも,一審原告に精神的苦痛を与えることに主眼がおかれたものと評価せざるを得ないから,一審原告に注意を与える目的もあったことを考慮しても,社会的相当性を欠き,不法行為を構成するというべきである。

 
4   結果
     他のパワハラ行為(飲酒強要など)とともに上司と会社に責任が認められ、もと部下に慰謝料金150万円を支払うよう命じられた。
 

5  判決の特徴
     原審は、メールを送る以前に部下が帰社命令違反という問題行動を起こしていたという経緯や、メールと留守電の内容が、必ずしも部下に強い心理的圧迫を与える内容でなかったことから、不法行為(パワハラ)の成立を否定する。一方本判決は、行為の主な目的が嫌がらせにあったという上司の内面を重視して、不法行為(パワハラ)の成立を肯定する。


6  意義
    いかに問題社員であっても、注意を与える際の口調などを気をつけないと不法行為責任(パワハラ)を負いかねない。 

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